体外受精は、現在の不妊治療の中で最も妊娠率の高い治療です。
自然妊娠が難しい方にとっては欠かすことのできない治療であり、医療が妊娠をお手伝いできる可能性を最も高められる方法でもあります。
一方で、体外受精を行えば必ず妊娠できるわけではありません。
私はYouTubeでもお話ししましたが、不妊治療は「確率の治療」です。
治療によって妊娠の可能性を高めることはできますが、100%妊娠できる治療はありません。
どれだけ努力を重ねても、時間や費用をかけても、思うような結果につながらないことがあります。
そうした治療だからこそ、私は体外受精を軽い気持ちでお勧めすることはありません。
必要な方には、適切なタイミングで
体外受精は「最後の手段」ではありません。
不妊治療では、必ずしもタイミング法、人工授精、体外受精の順に進むわけではありません。
年齢や卵巣予備能、これまでの治療経過、ご夫婦の希望などを総合的に考え、体外受精によって妊娠の可能性が高まると判断した場合には、早い段階でご提案することがあります。
一方で、一般不妊治療で十分妊娠が期待できて、そういった治療を希望する方に、最初から体外受精をお勧めすることもありません。
「少しでも早く妊娠したい」という方もいれば、「できることから始めたい」「妊娠したらうれしい」というお気持ちで治療を希望される方もいらっしゃいます。
治療に対する考え方や人生設計は、一人ひとり異なります。
私が大切にしているのは、体外受精を勧めることではなく、その方にとって今どの治療を選ぶことが最もよいのかを、一緒に考えることです。
治療の積み重ねがもたらすもの
体外受精では、結果によって2回目、3回目の採卵や胚移植が必要になることがあります。
思うような結果が得られず、患者さんと一緒に次の治療を考えることも少なくありません。
そんな時、私がいつも大切にしているのは、前回の治療から学び、その経験を次の治療に生かすことです。
採卵では、刺激方法は適切だったのか、卵子の数や成熟度はどうだったのか、受精率や胚盤胞への発育はどうだったのかを振り返ります。
移植では、その方の年齢や胚の状態から期待される妊娠率を踏まえ、「別の原因も考えた方がよい時期ではないか」と判断した場合には、必要な検査や治療をご提案します。
そして、「今回は何を見直したのか」「次は何を変えるのか」を患者さんと共有したうえで、次の治療へ進みます。
採卵や移植という治療名は同じでも、その内容まで同じであってはいけないと私は考えています。
患者さんにも、「同じ治療を繰り返している」のではなく、「前回の経験を生かしながら次の一歩へ進んでいる」と感じていただける診療を心がけています。
一人ひとりに合った治療を積み重ねるために
患者さんにとって本当に大切なのは、採卵や移植の回数そのものではありません。
一人ひとりに合った治療を選び、その積み重ねによって妊娠という目標に近づいていくことだと思っています。
そのためには、安全性に十分配慮しながら、一度の採卵で将来の妊娠につながる卵子や胚をできるだけ多く得ること、一回一回の移植を大切に行うことが重要です。
もちろん、このような診療の考え方が、そのまま数字に表れるほど不妊治療は単純ではありません。
患者さん一人ひとり背景も状況も異なり、何度も採卵や移植を重ねながら、一緒に歩んでいる患者さんもいらっしゃいます。
その一方で、日々の診療の中で一回一回の治療を振り返り、その方にとってよりよい方法を考え続けてきた積み重ねが、一つの結果として数字にも表れているのではないかと感じています。
当院では、妊娠された方の平均採卵回数は1.19回、妊娠までの平均胚移植回数は1.5回という結果になっています。
この数字は、すべての方が少ない回数で妊娠できるという意味ではありません。
しかし、一回一回の治療を丁寧に積み重ね、その方にとって最適な治療を考え続けることが、最終的には患者さんの利益につながると私は信じています。
体外受精は、不確実性と向き合い続ける治療です。
私が大切にしたいのは、体外受精を行うこと自体ではなく、その方にとって本当に必要な治療を、適切なタイミングで選択することです。
これからも、一人ひとりに合った妊娠までの道筋を患者さんと一緒に考えながら、一回一回の治療を大切に積み重ねていきたいと思っています。