生殖補助医療は、どのような方法で行うかにより患者様の負担が大きく変わります。当院では、患者様お一人お一人のご希望に合わせて、卵巣刺激方法や使用薬剤、通院スケジュールを調整し、治療をカスタマイズします。
また、卵子、精子、胚等すべての検体をバーコードで管理し、検体取り違え対策を行っています。
生殖補助医療(ART)とは
生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)とは、妊娠を成立させるために卵子と精子、胚を体外で取りあつかう治療法です。
- 体外受精(in vitro fertilization: IVF)
- 顕微授精( intracytoplasmic sperm injection: ICSI)
- 胚移植(embryo transfer: ET)
などの治療が含まれます。
ARTの対象
- 両側卵管閉塞
- 乏精子症、精子無力症
- 抗精子抗体陽性などの免疫性不妊
- 明らかな原因が指摘されていなくても、一般不妊治療では妊娠が成立しない方
妊娠が成立するためには、子宮内に入った精子が卵管を通過して卵子と出会い、受精後に受精卵が細胞分裂を繰り返しながら胚となり、再び卵管を通って子宮内に着床することが必要です。この過程のどこかが障害されている場合は、自然妊娠は難しくARTの適応です。
生殖補助医療の歴史
1978年に世界で初めてIVF児が誕生して以来、世界中で成功例が報告され、日本では1983年に初めての体外受精による出生児が誕生しました。現在、不妊治療としてARTは世界中に広まり、現在日本では出生児の約8.6%がARTにより生まれており、その割合は増加傾向です。
2022年4月には生殖補助医療が保険適応開始となり、体外受精・胚移植法が難治性不妊症に対する治療として既に欠くことのできない方法として位置付けられています。
生殖補助医療の種類
生殖補助医療には、主に次の3つの治療法があります。
- 体外受精(in vitro fertilization: IVF)
- 顕微授精( intracytoplasmic sperm injection: ICSI)
- 胚移植 (embryo transfer: ET): 新鮮胚移植、凍結融解胚移植
体外受精(in vitro fertilization: IVF)とは
精子と卵子が受精できるようにすることを媒精と呼び、体外受精と顕微授精の二種類の方法があります。体外受精とは、採卵術により採取した卵子の入った培養液に調整した精子を注入し、受精させる治療を示します。
体外受精では、媒精の過程において一つの卵子に対して運動精子5~10万個/mlが必要です。したがって、調整した精液がこの濃度に満たない場合は体外受精による受精が起こらない可能性があります。
顕微授精(intracytoplasmic sperm injection: ICSI)とは
顕微授精とは、体外で受精を促すという点で広い意味での体外受精の方法の一つですが、狭義の体外受精との違いは、媒精が顕微鏡下に卵子内に精子を直接注入することで行われるという点です。
顕微授精には透明帯開孔法や囲卵腔内精子注入法、卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection, ICSI)などの各法がありますが、1992年にICSIによる妊娠・出産が報告されて以降、現在はICSIが主流となり、顕微授精といえば卵子内に精子を一つ注入するICSIを指し示すことが多くなっています。
体外受精では卵子の入った培養液に調整した精子を注入し、自然に受精することを期待しますが、顕微授精では卵細胞質内に1個の精子を注入して受精を促します。そういった点から、顕微「授精」と表現されます。
顕微授精が選択されるのは、体外受精による媒精で受精が成立するのに十分な精子が得られない場合、また凍結精子や精巣内精子採取術により得られた精子を用いる場合、過去に体外受精で受精しなかった場合、抗精子抗体陽性などの場合です。
胚移植(embryo transfer: ET)新鮮胚移植、凍結融解胚移植
正常に受精した卵を胚と呼びます。受精後、胚は細胞分裂を繰り返しながら発育し、媒精から2~3日目に分割期胚に、5~6日目ごろに胚盤胞になります。このように発育した胚を子宮内に戻すことを胚移植と呼びます。
移植の際は、胚を培養液とともに細いカテーテル内に入れ、超音波ガイド下に子宮内に注入します。
新鮮胚移植とは、採卵後、培養した胚を凍結させることなく2~5日目に移植することを示します。一方、凍結融解胚移植とは、培養により発育した胚を一度凍結し、別の周期に胚を融解し子宮に移植する方法です。
一度の採卵で複数の移植可能な胚が得られた場合は、一つの胚を新鮮胚移植し、残りを凍結し、妊娠が成立しなかった場合に、再度別の周期に凍結融解胚移植を行うことができます。
近年、凍結融解胚による出生児数は ART全出生児数の約9割を占めています。凍結融解胚移植のほうが新鮮胚移植より妊娠率・生産率が高く、流産率はほぼ同じという傾向は過去20 年ほど大きな変化はありません。
新鮮胚移植のメリットは、採卵、移植を同一周期内で行えるため、妊娠までの期間が短縮されることが挙げられます。一方で、採卵のための卵巣刺激の結果、卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome: OHSS)を起こす可能性が高い場合などは、新鮮胚移植は推奨されません。
新鮮胚移植と凍結融解胚移植それぞれにメリット、デメリットがありますので、どちらの方法で移植を行うのかについて、治療開始時に担当医と相談することをお勧めします。