「採卵は先生がしてくれますか?」
採卵の日程が決まる頃になると、ときどき患者さんからこのようなご質問をいただきます。
採卵は体外受精において大切な治療の節目です。そのため、「ここまで診てもらった先生に、そのまま採卵も担当してほしい」と考えられる方もいらっしゃいます。
一方で、不妊治療では仕事や家庭との両立も欠かせません。担当医が毎回変わっても、希望する日時に受診しやすいことを大切にされる方もいらっしゃいます。
どちらが良いということではなく、患者さんによって大切にしたいことは異なります。
当院では、同じ医師が継続して診療を担当する「一貫診療」を大切にしています。
それは、「同じ医師が診ること」自体が目的ではありません。
一人ひとりに合った妊娠までの道筋を考えるためには、その方の身体だけではなく、その方の生活や価値観も理解することが大切だと考えているからです。
不妊治療は、生活の中で続いていく治療です
診療を続けていると、治療のことだけではなく、日常のお話を伺うことがあります。
「毎週〇曜日は習い事があるので受診しにくいんです。」
「来月は資格試験があるので、その前は通院が難しそうです。」
「主人がしばらく長期出張なので、その期間を考えて治療を進めたいです。」
「仕事ではお客様との約束を前もって決めるので、治療の予定をある程度見通せると助かります。」
こうしたお話は、一見すると医療とは関係のないことのように思えるかもしれません。
しかし私にとっては、どれも治療を考えるうえで欠かせない情報です。
不妊治療は、患者さんの生活から切り離して進められるものではありません。
その方の暮らしや仕事、ご夫婦の状況を理解しているからこそ、無理なく続けられる治療を一緒に考えることができます。
身体にも、一人ひとりの個性があります
一人ひとり生活が違うように、身体の反応も一人ひとり異なります。
例えば、一般的には卵胞は少しずつ発育して排卵へ向かいますが、途中まではほとんど大きくならないように見えても、その後急速に発育して排卵する方もいらっしゃいます。
薬への反応や卵胞の育ち方も、人によってさまざまです。
診察を重ねていくと、「この方はこのような経過をたどりやすい」「この薬にはこのように反応しやすい」といった、その方ならではの特徴が少しずつ見えてきます。
その積み重ねがあるからこそ、次の周期では、その方に合わせた治療を考えることができます。
一般的な治療を当てはめるのではなく、その方自身の身体がこれまで示してきた反応を大切にしながら治療を組み立てていくことも、一貫診療の大きな価値だと考えています。
一貫診療とは、その方を知り続けることです
スタッフから、「先生は患者さんのことをよく覚えていますね」と言われることがありますが、特別なことではありません。
何度も診察を重ね、一緒に治療について考えているうちに、その方のことを自然と覚えていくのです。
私が覚えていたいのは、検査結果やホルモン値だけではありません。
どのようなお仕事をされているのか。
何を大切にして生活されているのか。
どのような身体の反応を示してきたのか。
そうした積み重ねを理解していることが、一人ひとりに合った治療につながると考えています。
一人ひとりに合った道筋を、一緒に考え続けるために
前回のコラムでは、「一般的な知識だけでは、一人ひとりにとって本当に最適な答えは見つからない」というお話をしました。
だからこそ当院では、妊活設計診断を通して、その方に合った妊娠までの道筋を一緒に考えることを大切にしています。
その道筋は、一度決めたら終わりではありません。
治療を進める中で、生活が変わることもあります。卵巣や子宮の反応が予想とは違うこともあります。
その都度、その方にとって最も良い方法を一緒に考え、必要であれば治療方針を見直していく。
私は、その積み重ねこそが一貫診療だと思っています。
その方を知り、その方の身体を知り、その方と一緒に考え続けること。
それが、私が一貫診療にこだわる理由です。